一貫性を忘れないこと
オーストラリアのクリエイティブエージェンシー「ハードハットHardhat」(ハードハット)の共同創設者であり、行動経済学の専門家でもあるダン・モンハイト氏は、マーケティングの重要性を熟知しています。
よく見過ごされますが、ブランドが陥りやすい最大の誤りは、一度限りの施策を過大評価し、小さな行動を積み重ねる効果を過小評価してしまうことです。
「『一度のイベント』『一度の広告キャンペーン』『一本の記事』『一度のカンファレンス』『一晩のパーティー』——それがすべてを変えると思いがちです。
でも、そんなことが現実に起こるのは十億分の一の確率にすぎません。」
大半の成功は、時間と一貫性がカギになります。それは、高級レストランであれ、人気クラブであれ、ブランドの広報活動であれ、同じことです。
「私たちは一貫性にこそ価値を見いだし、そのために対価を払うのです。
私たちは人生において確実性を求めます。
そして、それこそがマーケティングにおいて最も重要な要素なのです」とモンハイト氏は語ります。
常識を打ち破る
既成概念を覆し、あらゆるルールを破るブランドといえば、「Liquid Death」(リキッド・デス)ほど鮮烈な存在はほとんどありません。
2019年、ロサンゼルスで「Murder Your Thirst」(マーダー・ユア・サースト、渇きを殺せ)という挑発的なキャッチコピーとともに誕生した「Liquid Death」は、バー、理髪店、ストリップクラブ、タトゥーショップなど、ごく一部の場所で缶入りの水を販売し始めました。
水のブランドにしては変わった名前とスローガンでは?
確かに。
でも、それ以外は特に突飛な点はなさそうに見えました。
ところが、実際に缶を目にしてみると印象は一変します。
「それまでの飲料水ブランドは、ミュートカラー(落ち着いた色合い)やソフトなカラーを使い、どこかの名水や氷河から汲んできたかのように見せていました。
いわば『純度競争』だったんです」とモンハイト氏は振り返ります。
「そこに『Liquid Death』が登場し、パンク風のトール缶で常識を真っ向から否定。エナジードリンクやヘビーメタルの要素を取り入れ、想像を超えるインパクトを放ったのです」
成功したのでしょうか?
ええ、大成功です。
わずか4年でブランド価値は7億ドルに達し、Instagramのフォロワーも150万人を超えました。
「これは健康やサステナビリティを楽しくすること。文化的に関連性を持たせるために創造性を活用することなんです」と、ペルノ・リカールのベンチャー部門はLinkedInへの投稿で強調しています。ペルノ・リカールはこのブランドをいち早く支援していました。
ターゲットを知ること
「Liquid Death」の天才的な点は、単に「水」をまったく新しい方法で売ったことだけではありません。
「彼らは、これまでこのカテゴリーであまり狙われてこなかった若い男性層に注目しました。そして、すでにこの層をしっかり掴んでいるのはどのカテゴリーか?と考えたのです」とモンハイト氏は語ります。
「その戦略は計算され尽くしていました。
彼らの取り組みは一つひとつが独創的でありながら、一貫性があるんです。
そのトーン、エネルギー、雰囲気までもが。」
同ブランドの中でもかなり過激なプロモーションが、投資家トニー・ホークの本物の血液を注入した限定スケートボードの販売でした。
こうした血気盛んな手法(ほかの奇抜な施策も含む)は、フォン・レストルフ効果、つまり「孤立効果」が、業界を揺さぶりたいブランドにとって依然として強力な広告戦略になり得ることを示しています。
SNSはほどほどに
一度に多くのプラットフォームを試しすぎるのはよくある失敗だと語るのは、ロンドンとロサンゼルスを拠点とするドリンク・マーケティング・エージェンシー「YesMore」(イエスモア)の共同創設者トム・ハーヴィー氏です。
彼によれば、ソーシャルメディアはすでに細分化されています。
選択肢が増えすぎたことでリソースが分散し、結果としてコンテンツが単調になり、どのチャネルでも同じ内容が使い回されがちです。
「大切なのは、クリエイティブな居場所を見つけること。TikTokやInstagram、Pinterest、YouTubeのどれでもいい、とにかく一つを選んでとことん極めることです!」
つまるところ、SNSは、最もソーシャル=人との関わりを重視すべきマーケティングチャネルということでしょう。
「バーにアドバイスするなら、人間味を出すことですね。
透明性を保ち、オープンであること。
すべてをシェアすること。
それを通じて場を生き生きとさせ、人々を引き込むことです。」
スローガンはシンプルに
ロンドンでは、オランダ出身のDJでクラブプロモーターのルビー・サヴェージ氏が、ハラスメント防止キャンペーン「Don't be a creep(キモいことするな)」で、ストレートなスローガンの力を示しました。
最初は、ダンスフロアでの女性への嫌がらせにうんざりした人々に向けて販売されたスローガン入りTシャツから始まりました。その人気は爆発的で、ファッションブランドのSupremeが自社店舗で販売するほどでした。
「Tシャツにプリントして着たいと思えるか?」のテストを通れば、そのスローガンは勝ちです。
キャンペーンはその後、さらに拡大しました。
「現在では、会場やフェス、プロモーターと協力し、強力なスローガンを掲げたポスターやソーシャルメディアキャンペーンを展開しています。『不快な人間は歓迎しない』というメッセージを明確に伝えているんです」とサヴェージ氏は語ります。
ただし、実際にはそう簡単ではありません。「変化を起こしたいと願う人は多いですが、実際に動き出す際には予算の制約が大きな課題となるのです」と彼女は付け加えました。
シークレットソース——エッセンス版
最後にグラスを掲げながら、ダン・モンハイト氏のタイムリーな言葉を紹介しましょう。
「マーケティング業界や広告業界では常に『勇気を持て』『差別化しなければ消える』と言われます。
ですが、自分たちのブランドが消費者の暮らしの中でどれだけ大事か、過大評価しすぎていると思うのです。
その結果、自分たちの取り組みのリスクや大胆さも、実際以上に大げさに考えてしまっているのです。」
要するに——モンハイト氏がここで伝えたいのは、「多少なりとも勇気を持て」ということです。