Instagram向けのカクテル撮影

08 January 2023

Guest Shift: Matt Russell
15年以上にわたりフード&ドリンク分野で活動する写真家でありディレクターのマット・ラッセル氏。 編集から商用案件まで幅広く手がけ、あらゆる目的に応じた食欲をそそる完璧な一枚を撮影してきた経験を持っています。 ここでは、店舗オーナーが写真家とどのように連携すべきか、そして成功のためには明確な依頼内容と冷静な姿勢が不可欠であることを指摘します。

マット、カクテルの撮影というのは、さぞや魅力的なお仕事なのではないでしょうか。


「キャリアの初期、撮影の合間に『ちょうどランチの時間だし、このフローズンマルガリータをひと口飲めば、きっと創造力が高まるだろう』と思ったことがありました。
ところがそうはなりませんでした。
アルコールが強すぎて眠くなってしまい、とてもクリエイティブどころではなかったのです。」


ドリンクの撮影は、料理の撮影よりも難しいのでしょうか。


「違いはありますが、基本的には同じアプローチです。私は常に感情的な反応を捉えることを意識しています。
料理ならノスタルジーかもしれませんが、ドリンクの場合は『今すぐ飲みたい』という欲求を喚起させるのが狙いです。
南国にいるような気分を想起させたり、見た瞬間に『すぐ手に取って飲みたい』と思わせるほど、美味しそうで爽快に見せることを目指しています。」
 

最近はオリー・スミス氏の『Home Cocktail Bible』(ホーム・カクテル・バイブル)の撮影を担当されました。
グラスに入った液体ばかりの一冊でしたが、それぞれの写真を違う印象にするのは難しかったのではないでしょうか。


「多くのプロジェクトで課題となるのは、構図的に面白く芸術的に仕上げつつ、同時に見る人の感情に訴える写真を作ることです。
このプロジェクトでは、それぞれのドリンクにできる限り違いを持たせ、個性を引き出そうとしました。
似たように見えるグラスが多いため、アングルを工夫したり、ドリンクの種類に応じてあるときは力強く、またあるときは彫刻のように見えるよう仕上げました。
さらに、そのドリンクの歴史や遊び心、壮大さといった要素も考慮しました。」
 

考えることが本当にたくさんありますね。


「観る人を旅に連れ出すような体験を提供したいのです。そのために時間帯や光の色温度、アングル、構図、ライティングを活用して印象を強調します。」


雑誌向けの撮影と、広告やブランド案件での撮影には、どのような違いがありますか?


「基本的に、雑誌の仕事ではその場でのクリエイティブな自由度が高いです。一方で、広告やブランド案件では事前に多くの要素が合意済みで、その枠内で創造性を発揮することになります。」


なるほど。バーのプロモーション用写真を撮影する場合にも、その考え方は役立ちますか?


「ええ、とても役立ちます。
私はできる限り多くの詳細を事前に把握したいタイプです。
ラフでも構いませんから、ムードボードをお願いすることもあります。
例えば、『この5枚は好きだが、この写真は好みではない』といった具合です。
そうしたビジュアルの指針があると、とても助かります。」
 

バー経営者などのクライアントが、フォトグラファーに依頼する際に意識すべきことは何でしょうか?


「撮影で作り上げるのは、ブランドの『ビジュアル言語』です。
もしバーがネグローニやマティーニといったクラシックなドリンクを提供しているなら、一貫性のあるスタイルで撮影することが望ましいでしょう。
一方で、もっと実験的なドリンクを提供しているなら話は別です。ラングハムのバーで撮影したときには、カクテルの上に、その風味を移した煙を閉じ込めたガラスのドームを載せたショットを撮りました。結果、とても凝っていて華やかな仕上がりになりました。
その結果、1枚1枚が全く異なる表情の写真になったのです。
ですが、オールドファッションのようなクラシックなカクテルなら、多くの人がシンプルで洗練された写真を求めます。
つまり、顧客の期待に沿うことが大切なのです。
何よりも、ブランドの美学やドリンクのスタイルを依頼時に明確に伝えることが、フォトグラファーにとって何より重要です。」
 

ドリンクビジネスのクライアントがフォトグラファーと仕事をする前に、知っておくべきことは何ですか。


「まず、自分が何を求めているのかを明確にしてください。
そして、撮影には時間がかかることを理解してください。」
 

「さっと並べて撮るだけ」というわけにはいかないのですね?


「その通りです。仮に同じ背景で、バーテンダーが途切れなくカクテルを作り続けていると、それを見て『撮影は無制限でいくらでも進められる』と誤解されがちです。
ですが、実際にはそうではありません。
技術的な要件や依頼内容、ライティングやセットによって大きく左右されます。
だからこそ、撮影前に何をどれだけ必要とするのかを明確にしておくことが非常に重要です。
そうすれば、フォトグラファーは期待に応えるために必要な条件をきちんとアドバイスできます。」
 

バーテンダーを撮影現場に置くという話がありましたが、バーの撮影にフードスタイリストを使うことはありますか。


「はい、私はぜひ起用すべきだと思います。
確かに、優秀なミクソロジスト(高度な技術を持つバーテンダー)と仕事をする場合、その人なら十分にスタイリングもできるだろうと思うかもしれません。
でも、それが常に正しいとは限りません。本当に難しい作業だからです。
料理やドリンクをすぐに提供する前提で見栄えよく仕上げるのと、カメラで撮影するために美しく仕上げるのとはまったく別物です。
カメラは細部を何倍にも拡大して映し出します。
だからこそ、スタイリストが持っているディテールを見る目が重要なのです。」
 

では、フードスタイリストは創った本人以上に良いドリンクを作れるということですか?


「そうです。それはひとつの高度なスキルです。
だからこそ、この仕事に就いている人の多くは芸術的なバックグラウンドを持っています。
フードスタイリストはフォトグラファーやアートディレクターと同じくらいのクリエイティブな重要性を担っているのです。
最終的に目指すのは売ることです。つまり、そのドリンクを最高に美しく見せる究極の形を作り上げようとしているのです。それはとてもアスピレーショナル(憧れを喚起するよう)な作業です。」
 

ポストプロダクション(撮影後の編集作業)は、どのくらい行うものですか。


「ドリンクを撮影するフォトグラファーは、それぞれアプローチがまったく異なると思います。
非常にコンセプチュアルで、たくさんのトリックやレタッチを加えて現実感を超えた「ハイパーリアル」に仕上げる人もいます。
私はできる限りカメラの中で完璧な写真を作ることを大切にしています。ライティングや構図を駆使してベストを尽くすのです。そうすれば、撮影後にやるのはちょっとした修正やホコリを消す程度で済みます。本当にフォーカスしているのは、ありのままのドリンクを写すことなのです。」
 

撮影が終わって、さて打ち上げに一杯飲むとしたら、どんなドリンクを選びますか?
 

「私の一番好きなドリンクはネグローニです。
オールドファッションドもいいですね。」

Matt Russell

Matt Russell

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